ひとこと

  •  最近、読みたいなあと思ったビジネス書とか実用書は、たいてい紙だけでしか出版されていない(涙)。なので、買えないし、読めない。それにあれだけ読んでみたいと切望していたのに、一週間もすれば、私の興味が次に移っているので、その本の事など、どーでもいい気分になっていたりします。以前は、週末ごとに書店に行って、ごっそり本を買っていたのに、昨今はそんな感じで読みたい本が電子書籍化されていないので、読めず、買えずで、読書量が落ちている私です。紙の本を買えばいいじゃんと思われるかもしれないけれど、一度電子書籍に親しんでしまうと、もう紙の本には戻れないんだよ。紙の本を販売しちゃいけないとは言わない。ただ、電子書籍版も同時に発売してくれよ~と声を大にして言いたいだけなのです。
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2018年8月21日 (火)

メトのライブビューイングで「トリスタンとイゾルデ」を見てきた

 メトのアンコール上映に再び行ってきました。今回は、2016年の当時、新演出で、シーズンのオープニングアクトとして話題になったワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を見てきました。

指揮 サイモン・ラトル
演出 エリウシュ・トレリンスキ

トリスタン スチュアート・スケルトン(テノール)
イゾルデ ニーナ・ステンメ(ソプラノ)
マルケ王 ルネ・パーペ(バス)
ブランゲーネ エカテナーナ・グバノヴァ(メゾソプラノ)

 まず歌に関して言うと…どうなんだろ? 映画館で見ている分には良かったけれど、実際の劇場ではどうだったろうとは思わないでもなかったです。と言うのも、テノールのストルトンの声は、あんまりワーグナーテナーっぽくなくて、役と声が合ってないんじゃないかな…と少々心配しました。無理していなければいいのだけれど…。逆にソプラノのステンメはパワフルなんだけれど、終始パワフルで…まあ聞いていて飽きちゃいます。それ以外の歌手の皆さんは、歌う箇所が少ないという事もあるけれど、まあ水準以上って感じかな?

 とにかく、このオペラは主役の二人がずっと歌っているというイメージです。実際、常にどちらかが舞台で歌っていますし、この二人の二重唱もすごく多い。ずっとずっと歌っているわけで、体力勝負だよなあ…って思います。二人の主役にばかり負担がかかるように作曲されているオペラなわけで、それゆえにこの二人に良い歌手が当てられれば素晴らしい上演になるんだろうと思います。今回の二人は…まあ、こんなモンでしょう、ご苦労さまって感じです。実際、最後まで歌い切る事が、そんちょそこらのプロ歌手じゃ難しいって事は私にも分かります。なので、最後まで破綻なく歌いきった二人の歌手に脱帽です。

 で、肝心の演技とか演出とかの話になるわけだけれど、この上演は、いわゆる、現代的な演出でした。時代は…20世紀後半? 設定はアメリカ海軍? 舞台は、第一幕が軍艦の船室。第二幕の前半が管制塔、後半が格納庫。第三幕が病室。トリスタンと男たちは軍服着用。イゾルデはコート着用(下にパーティードレス)、侍女のブランゲーネはおしゃれじゃない外出着…って感じで、全体的に地味でした。

 台本と演出にはかなりの乖離があります。はっきり言って、あっちこっちに無理があります。それでも第一幕と第二幕の前半の演出は、私の中では、我慢できる程度の読み替えだったと思いますし、そもそも伝統的な演出だと、このオペラは登場人物が突っ立っているだけで、ロクな演技をしないので、それと比べると、まあ説明的で、今日的で、これはこれでアリかも…って思ってましたが…第二幕の格納庫のシーンは演出の意図が全然分からないし、説明も放棄しているし、第三幕の病室のシーンになると、台本と演技が全くの別物で、見ていて意味不明でした。

 なぜ、子供のトリスタンが病室に舞台にいるわけ? 血まみれのマルケ王の生霊が全編通してたびたび出てくるのはなぜ? トリスタンは第二幕の最後に、裏切り者として仲間たちに胸を拳銃で撃ち抜かれて即死しているはずなのに、なぜ三幕では病室にいるの?

 いやいや、それ以前に、この演出ではマルケ王は、トリスタンの上司でしょ? おそらくは元帥あたりの地位だろうけれど、上司の女を寝取ったからと言って、射殺は無いんじゃないの? 現代なら、軍を首になってお終い…後は慰謝料の支払いでてんてこ舞いって程度でしょ(もちろん女も元帥から捨てられるだろうし)。それ以前に、第一幕で、上司の土産に女性を届けるって…人身売買? 女性の人権ってあるの? とか、ほんと、この演出には無理しかありません。

 だいたい、好きだ惚れたとか言っている二人が、実際にはキスをする程度で、それって現代劇じゃありえないでしょ? この程度は、現代では、たぶん問題にすらならない。それに媚薬って…現実に媚薬に近い覚醒剤はあるけれど、その効き目はせいぜい半日程度でしょ? 設定を現代にした事って、大失敗だと思うわけです。

 イゾルデは、本来はアイルランドの王女だから、凛々しくて当然なはずだけれど、この演出では、ただの街の女でしょ? ブランゲーネだって侍女じゃなくて、ただの友達でしょ? トリスタンに至っては、真面目男が薬盛られて、女に心を奪われたってだけなのに、それで射殺よ? ありえない。

 そもそもワーグナーの諸作品は、彼の中二病的素質が根本にあるんだから、あまり現実的に、現代的にする事自体が間違いだと、私は思うんだよね。ワーグナー自らが指定しているように、大昔に時代設定するとか、あるいは神話にしちゃうとか、いっそSFにしちゃうとか…そういうありえない設定にしないと、話そのものがありえないんだから、話が収まっていかないんだと思うわけです。

 と言う訳で、今回の上演は、見て後悔しました。歌唱と演奏は水準以上だから、金返せとは言いません(それにアンコールなので、ちょっと安価で見ているわけだし…)が、皆さんにはお薦めしません。この演出は、ほんとダメだと思います。

 実際、メトでも激しいブーイングがありましたね。特に第二幕終了直後は、すごいブーイングが聞かれましたが…私は、そのブーに同意しますよ。

 …ってか、「トリスタンとイゾルデ」って、そもそも楽しく舞台で見れる作品なのかな? ストーリーなんて、あって無いようなものだし、トリスタンとイゾルデの二人が終始グズグズしているだけだし、音楽はおおげさで飽和しまくっているし…。「ワルキューレ」と「マイスタージンガー」の間に作曲された作品だけれど、難解で退屈なだけで、エンタメとして成立していないような気がします。「ワルキューレ」や「マイスタージンガー」が良質なエンタメであるのに、「トリスタンとイゾルデ」って退屈過ぎるんだよね。

 と言う訳で、個人的には、今回の上演はお薦めしません。この上演を見るお金があったら、別の演目を見た方が、絶対に楽しめると思います。お金は貴重だから、大切に使わないといけないよね。

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