ひとこと

  •  最近、読みたいなあと思ったビジネス書とか実用書は、たいてい紙だけでしか出版されていない(涙)。なので、買えないし、読めない。それにあれだけ読んでみたいと切望していたのに、一週間もすれば、私の興味が次に移っているので、その本の事など、どーでもいい気分になっていたりします。以前は、週末ごとに書店に行って、ごっそり本を買っていたのに、昨今はそんな感じで読みたい本が電子書籍化されていないので、読めず、買えずで、読書量が落ちている私です。紙の本を買えばいいじゃんと思われるかもしれないけれど、一度電子書籍に親しんでしまうと、もう紙の本には戻れないんだよ。紙の本を販売しちゃいけないとは言わない。ただ、電子書籍版も同時に発売してくれよ~と声を大にして言いたいだけなのです。
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2018年8月16日 (木)

メトのライブビューイングで『エルナーニ』を見てきた

 連載を中断して、この記事をぶっこみます。

 今、東劇ではメトのライブビューイングのアンコール上映を行っています。アンコール上映とは、以前の上演目の中から、見逃した上演や、もう一度見たい上演を連日上映してくれる、有り難い企画です。私は毎年アンコール上映に行ってるくらいです。

 で、今年も何回かアンコール上映に行くつもりなのですが、まず今年最初に見てきたのが、ヴェルディ作曲の『エルナーニ』です。

 この上演は、2011-12年のシーズンのものなので、もう7年前のモノになります。目玉は、まだ元気なホヴォロストフスキーを見れる事かな?

 ディミトリー・ホヴォロストフスキー。昨年(2017年)の11月に55歳で亡くなった、ロシアのバリトンです。銀髪で、とにかくイケメンなバリトンです。たいていのテノールが容姿では彼に勝てません。声も芝居も水準以上ですから、長生きしたならばレジェンド歌手になれたはずの逸材です。惜しい人を亡くしました。

 その彼がまだ50歳になったばかりの上演を見てきたわけです。

 指揮 マルコ・アルミアート
 演出 ピエール・ルイジ・サマリターニ
 
 エルナーニ マルチェッロ・ジョルダーニ(テノール)
 エルヴィーラ アンジェラ・ミード(ソプラノ)
 国王カルロ ディミトリー・ホヴォロストフスキー(バリトン)
 シルヴァ フェルッチオ・フルラネット(バス)

 まず『エルナーニ』という作品の感想から。このオペラは実に無名なオペラで、ほぼ上演されるチャンスのない珍しい作品です。実際、日本でも21世紀になるまで上演される事の無かったというくらいに不遇な作品なのです。

 巨匠ヴェルディの作品なのに…ね。

 巨匠の作品なのに、なぜ上演されないのか? よほどの駄作なのか? …いいえ、違います。むしろ良作です。ただ、ヴェルディの他の作品と比べてしまうと、見劣りするというだけでの話で、これが他の一発屋オペラ作曲家の作品だったら、もっと上演されるチャンスもあったろうになあ…と思われるくらいの良作です。

 実際、ヴェルディが30歳の頃の、まだ駆け出しの頃の作品で、名作『ナブッコ』の次々回作として作曲された作品で、『ナブッコ』がイタリア国内でヴェルディの名前を知らしめた作品であるならば、『エルナーニ』はヴェルディにとって、最初に各国で翻訳版が上演されたオペラであって、いわば彼を国際的なオペラ作曲家として認知せしめた作品なのです。そんな作品が、悪いはずはありません。

 ストーリー的には少々複雑で分かりづらいオペラですが、とにかく、全編、歌いまくりです。メロディアスなオペラアリアはもちろん、パワフルな重唱や合唱がオペラ全体を導いていきます。悪いはずがありません。ただし、上演に際しては、歌手を選ぶことは必定でしょう。とにかく、歌いまくりですから、歌える歌手を揃える必要があります。

 ある意味、同じヴェルディ作品である『トロヴァトーレ』に似た作りのオペラと言えるかもしれません。

 さて、今回のメトの上演は、歌手たちを揃えた…という点では合格と言えるでしょう。特に主役のテノールのジョルダーニが素晴らしいと私は思います。そもそもジョルダーニは、この上演の三ヶ月前に交通事故死をしたサルヴァトーレ・リチートラの代役だったそうです。確かに、他のメンバーと比べて、実力はともかく、スター性に欠ける彼がここに入っているのには違和感がありますが、それはそういう理由だったからです。それにしても、ジョルダーニの声も歌も(バカっぽい)芝居も、実に良かったと思います。

 お目当てのホヴォロストフスキーは、例によってイケメン過ぎます。バリトンって、一部の役を除いて、そんなにカッコよくてはいけないのです。少なくとも、テノールの引き立て役じゃないと説得力がないのです。今回の『エルナーニ』においてもそうです。エルナーニ役のジョルダーニも(肥満体だけれど)まあカッコいい人ですが、ホヴォロストフスキーとは比較になりません。バリトンの方が、数段イケメンって、なんですか、これ? そのイケメンなバリトンが劇中で“王様 -> 皇帝様”に大出世しちゃうんだよ。そんなスーパーなバリトンを振って、ソプラノがお馬鹿なテノール(皇帝様のお慈悲で、山賊の頭から貴族に昇格)に走る必然性が分かりません。エルヴィーラって、ダメンズなの? まさか…。

 カッコ良すぎるホヴォロストフスキーには、トロヴァトーレのルーナ伯爵か、カルメンのエスカミーリョがお似合いですって。それ以外の役には、彼はイケメン過ぎるって。

 シルヴァを演じたフルラネットは、素晴らしすぎます。ラストシーンでの彼の演技は…演出家の意図だろうが、納得いきませんが、それ以外は素晴らしいです。

 問題のラストシーンでは、エルナーニのみならずエルヴィーラも自殺してしまうのが、この演出のキモなんだけれど、エルナーニはともかく、エルヴィーラの自殺も冷ややかに眺め「これでワシの復讐が終わりだ…」ってシルヴァが言うのは、絶対におかしいです。エルヴィーラが自殺した段階で、シルヴァは取り乱さないといけないし、彼女の救命に走るはずです。彼にとって、エルナーニはクソ生意気な小僧かもしれないけれど、エルヴィーラは最愛の姪にして、自分の元婚約者にして、今だって妻にしたい女性ナンバーワンなんだから、その死を冷静に受け入れられるはずはないのです。だから、演出がオカシイと思うわけですよ。最後にエルヴィーラを殺しちゃった演出家は、そこが甘いんですよ。エルヴィーラは、生き残って、シルヴァの嫁になって、悲劇が完成するんですって。

 そのエルヴィーラを演じたソプラノのミードは、容姿以外は及第点です。容姿は…3人の男を狂わせるほどの美貌もセクシーさも彼女には無いので、説得力に大いに欠けます。今の時代、オペラには役にふさわしい容姿も大切だからね。少なくとも、もう少し痩せてないと、この役を演じるには不足だし、もっと痩せていて歌の上手い、若手ソプラノなんて掃いて捨てるほどいるわけだから、そういう意味でも、ちょっと残念かな?

 マイナーオペラだから、レパートリーに入っている美人ソプラノがたまたまいなかっただけなのかもしれませんが…。ああ、残念。

 演出の一部には疑問がありますが、今回の上演は、概ね良い出来だと思います。1983年にオリジナル演出が作られたそうだけれど、やはり70~80年代のメトの演出はいいですね。ゴージャスで分かりやすいです。最近のメトの新演出はダメな演出が多いですから、たまに行われる、昔の演出での上演って、本当に楽しみです

 メトにも色々な都合はあるのだろうけれど、20世紀後半のようなテイストの演出を復活させてほしいなあって思います。そういう豪華さとわかり易さがメトのウリだと思うんだよね。

 とにかく、今回の『エルナーニ』の上演は、良かったですよ。

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