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2018年6月 4日 (月)

なぜ、日本の声楽家さんたちは英語詩の歌曲を歌わないのか?

 日本の声楽家の皆さん、つまり、西洋クラシック声楽を生業となさる歌手の皆さんのレパートリーって、オペラがメインで、歌曲も歌うという方が大半です。で、その歌われる歌曲も、イタリア歌曲、ドイツ歌曲が中心的なレパートリーで、それに加え、歌手によって、フランス歌曲や日本歌曲が加わり、さらにロシア歌曲やスペイン歌曲などの、その他の西洋語の歌曲をレパートリーとする歌手が加わります。

 日本人にとって、もっとも親しみ深い西洋語である英語の歌曲って、多くの作曲家によってたくさんの曲が作曲されているにも関わらず、日本の声楽家の皆さんは、あまり取り上げて歌うことはありません。おそらく、ロシア歌曲やスペイン歌曲よりも少ないかも…。でも、ショパンの歌曲が大半だろうけれど、ポーランドの歌曲よりは、多く歌われているんじゃないかな…ってくらいの印象です(きちんと統計調査を調べたわけじゃありませんから、あくまで、私個人の印象です)。

 英語の歌曲って、良い歌がたくさんありますよ。音源も探せばあれこれあります。でも、なかなか日本の声楽家の皆さんは歌われません。残念ですね。

 で、私は、なぜ日本の声楽家の皆さんが英語詩の歌曲を歌われないのか…考えてみました。

1)そもそも声楽家の皆さんは、英語が苦手

 日本の声楽家の皆さんは、基本的には語学は得意な方が多いと思われますし、海外にもたくさん留学されるので、外国語が苦手という人は少ないはずですが、英語はあまり得意ではない…ってか、苦手だとおっしゃる方の話をチラホラと聞きます。まあ、彼らが留学すると言っても、留学先はイタリアとかドイツとかフランスとかの非英語圏がほとんどですから、イタリア語やドイツ語やフランス語と比べると英語は苦手なのかもしれません。なので、なんとなく、英語詩の歌曲を避けてしまうのかもしれません。

2)音大では英語詩の歌曲は教えない

 多くの音大の声楽科では、イタリア歌曲とドイツ歌曲、日本歌曲は必ず教えますし、その他の言語の歌曲も、師事する教授によっては教えてくださるようだけれど、英語詩の歌曲を音大で教えているという話は、私、寡聞にして聞きません。もしかして教えている大学があるのかもしれませんが、おそらくそれは極少数の大学で教えているかも…?ってレベルなんだろうと思います。多くの、普通に音楽大学を卒業して歌手になられた方は、学生時代に英語詩の歌曲を学んだ経験はないだろうと思われます。

 学校で教えてもらえないと…少なくとも若くてキャリアの浅いうちは、それらの曲をレパートリーにするのは難しいだろうし、キャリアを積んで一人前に成れる歌手なんて、音大卒業生の中のほんの一握りだろうし…と考えると、なかなか声楽家の皆さんが英語詩の歌曲を歌われないのも仕方ないのかもしれません。

3)英語の歌曲はミュージカル(つまりポピュラー音楽)っぽく聞こえる

 案外、この理由が最大の原因かもしれません。英語の歌曲って、ポピュラー音楽っぽく聞こえるんですよ。というのも、ポピュラー音楽って、大半が英語詩ですからね。

4)有名な英語詩の歌曲は少なく、その多くをポピュラー歌手たちが歌っている

 例えば、『ダニー・ボーイ』とか『グリーン・スリーブス』とか『アメージング・グレース』『アニー・ローリー』『庭の千草』『春の日の花と輝く』『埴生の宿』…、そしてフォスターが作曲した数々の歌曲たち…。おそらく、我々が日常生活でなんとなく耳にする英語詩の歌曲って…こんな程度です。クラシック声楽を学んでいる人だと、これにトスティが作曲した数曲の英語詩の歌曲、例えば『Good-Bye』などの曲が入るかなって程度です。おまけにこれらの曲の多くは、クラシック系の歌手ではなく、実はポピュラー系、それもジャズ歌手の皆さんの歌唱で聞くことって…多くありませんか? そう、英語詩の歌曲の一部は、スタンダード音楽としてジャズ歌手の皆さんに歌われる事が、日本では多くて、それもあって、クラシック系の歌手の皆さんがレパートリーにするのを避けている…ような気がしないでもないのです。

5)そもそも英語詩の歌曲はローカルな曲が大半だから

 英語詩の歌曲って、我々が知らないだけで、実はたくさんあります。それは輸入楽譜をちょっと調べてみると分かります。たくさんあるのだけれど、その大半が、我々の耳に届きません。そして、それらの歌曲を歌っているのは、アメリカやイギリスなどの英語を母国語としている歌手の方が大半です。

 これは、日本における日本歌曲の扱いに似た感じなのかもしれません。日本歌曲だって、良い歌曲はたくさんあるけれど、歌っているのは、ほとんど日本人歌手であり、海外の歌手さんたちが日常的なレパートリーとして取り上げる事がないようなもの…と同じで、英語詩の歌曲も、良い歌曲はたくさんあるけれど、歌っているのは、アメリカやイギリスなどの英語を母国語としている歌手が大半で、それらの国以外の歌手さんたちは、ほぼ歌わない…って感じなのかもしれません。

6)英語詩の歌曲って、バロック曲と近現代曲しかないから

 調べてみると分かりますが、英語詩の歌曲って、クラシック音楽のど真ん中である、ロマン派の曲が少ないのです。かろうじて、フォスターがロマン派の作曲と言えますが、その他の有名作曲家は、みな、バロックの時代の作曲か、近現代になってからの作曲家たちばかりです。

 これは、ロマン派の時代のイギリス貴族たちが、母国語の音楽を大切にしなかったから、こうなってしまったんだろうと思います。彼らは、自分たちが英語で生活しているにも関わらず、王宮ではフランス語を用い、音楽ホールではイタリア語で楽しみ…なんていう生活をしていたツケが、ロマン派の時代の英語詩の歌曲の少なさに繋がっているだろうと思われます。

 ま、原因が事なれど、ロマン派の時代に冷飯を食らってしまったという点においては、英語詩の歌曲って、フルート独奏曲と同じような立場なんですね。

7)英語詩の歌曲は難しく、アラが目立つから

 歌ってみると分かりますが、英語って実に歌いづらい言語なんですよ。ドイツ語ほどではないにせよ、子音が強くてレガートに歌いづらいんです。難しい歌を歌えば…当然、歌手としてのアラが見えてしまうわけで、そんな難しい言語の曲は…できれば避けたいですよね。

 以上、日本の声楽家の皆さんが英語詩の歌曲を歌わない理由を考えてみましたが、考えれば考えるほど、やっぱり日本の声楽家の皆さんが英語詩の歌曲を歌うのは、色々と難しいんだなあという結論に達してしまいました。

 仕方ないよなあ…でも、英語詩の歌曲にも、いい曲はたくさんあって、そういう音楽をたまに(笑)聞くと、私は感動しちゃったりします。日本でもっと広く紹介されていいと思うのですよ、英語詩の歌曲ってね。

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コメント

こんばんは。

> 英語詩の歌曲って、バロック曲と近現代曲しかないから

英語詩の歌曲のリサイタルは行ったことがありません。英語詩の歌曲でググッてもいまいちでした。
範囲を広げても、イギリスの管弦楽で最初に聴いたのはブリテンの「青少年のための管弦楽入門」、主題はパーセルです。(小学校(?))

ロマン派っぽい管弦楽は次があります。フルート業界のライネッケみたいです。
Frederick Delius: A Song of Summer [John Barbirolli]
https://www.youtube.com/watch?v=BIr4UnjYp0U

イギリスのピアノ作品もグールドがバード・ギボンズ作品集の録音残してくれてかろうじて聴いたくらいです。
Glenn Gould plays pieces by William Byrd and Orlando Gibbons
https://www.youtube.com/watch?v=Lwel6XP2yMY

イギリス人テノールの方のシューベルトのリートリサイタルへ行ったこともありますが???でした。
カルチャーとか感覚の違いはかなりありそうです。

失礼しました。

tetsuさん

 貴族社会の頃のイギリスって、たぶん音楽の消費地であって、生産地じゃなかったんだろうと思います。だって、当時の音楽家って、使用人でしょ? イギリスって、今でも王様がいるくらい、歴史の流れもゆったりした国だったわけで、他の国のように、自立した音楽家が出てくるまで、時間がかかったんだろうと思います。

 なにしろ、パーセルからブリテンまでの空白期間の長いこと長いこと。

 ディーリアスは、ヘンデルやトスティみたいな立ち位置の作曲家です。イギリスで活躍しましたが、彼はドイツ生まれのドイツ人です。私はディーリアスなら『日没の歌』が好きかな?

 ちなみに、ウィリアム・バードとオーランド・ギボンズはともにバロック以前の、ルネサンス時代のイギリスの作曲家ですね。バロック時代のパーセルよりも古い人たちです。

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